といった悩みにお答えします。
本記事の内容
- 法人でもマンションが所有できる
- 法人がマンションを購入するメリット
- 法人がマンションを購入するデメリット
- 名義変更の方法についての注意点
- 法人と個人で比較
マンションを法人名義で所有できないか考えたことはありませんか?
既存の会社がマンションを購入するケースだけでなく、個人でマンションを所有していた方でも新しく会社を設立してマンションを法人名義に切り替えるという人は少なくありません。
所有者を法人名義に変えることで税制などあらゆる面でメリットが生まれます。
その反面で、注意しなければ思わぬデメリットに転じることもあります。
本記事では、会社を法人で所有することのメリットとデメリットについて解説します。
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法人でもマンションが所有できる
まず前提として、法人名義でマンションを所有することは可能です。
ケースとしては、既存の株式会社が1つの事業として収益の得られるマンションを購入するケースや、組織の保養施設としてマンションを購入するケースなどが考えられます。
また個人でマンション投資をしているオーナーに関しても、不動産所得が大きくなってきたタイミングで法人化するというケースがあります。
法人がマンションを所有することで様々な節税効果が得られることがあるため、メリット・デメリットを理解したうえで法人名義を活用することが推奨されます。
なお、法人には株式会社のほかに合同会社や社団法人などがあり、法人登記がされていればどの法人形態でも不動産を所有することができますが、個人事業主等が使用している事業名義(いわゆる、屋号など)では不動産を所有することはできませんので、ご注意ください。
法人がマンションを購入するメリット6つ
法人がマンションを持つメリットは、以下の6つになります。
- 所得税を節約できることがある
- 経費を活用できる
- 相続税対策になる
- 不動産収入を役員報酬化できる
- 赤字が出たとき来年度い繰り越しできる
- 対外的な信用度が上がる
1つずつ解説していきます。
メリット①:所得税を節約できることがある
賃貸しているマンションの名義を法人化することで、そこから得られる収益に対する所得税が節税できることがあります。
たとえば、マンションから得ている家賃収入が年間1,000万円で経費が200万円かかっているということであれば、個人経営の場合は800万円が所得になります。
これを法人化すると、800万円の利益を会社の代表者である自分に役員報酬として支払うことで、800万円から給与所得者控除を差し引いた額が個人の所得という扱いにすることができ、節税効果が生まれます。
また、800万円をまるまる役員報酬とすることで会社の売り上げはゼロとなるので法人税も課税されません。
メリット②:経費を活用できる
マンション賃貸を法人の事業として行うと、経費として扱える支出の幅が増えるというメリットもあります。
たとえば役員名義の定期保険や倒産防止共済に会社名義で加入したり、マンション賃貸運営に必要な交際費などを経費に含めたりできることがあり、個人事業として運営するよりも節税効果があります。
メリット③:相続税対策になる
マンションの名義を法人化することで相続対策になることがあります。
個人事業主の場合、マンションから得られた収益を現金で家族に分配すると贈与税の対象となります。
しかし、法人を設立し相続予定の家族を会社の役員とすれば、会社の収益を役員報酬として現金を分配することがでます。
法人化することで贈与という形をとらずに財産を生前移転することができれば有効な相続対策になると思います。
将来相続が発生したときは会社の事業を承継するという形になりますが、マンションはあくまで会社の財産なので相続財産とはなりません。
ただし、被相続人が保有している法人の株式は相続財産になりますので注意が必要です。
メリット④:不動産収入を役員報酬化できる
所得税の項目で説明したように、マンションから得られる収益を役員報酬として受け取れることは大きなメリットになります。
役員報酬は税制上、給与所得の扱いになるため青色事業専従者給与の制限はありません。
また、家族を役員にすることで相続対策となるだけでなく、1人当たりが受け取る報酬に対する所得税を少なくすることもできます。
メリット⑤:赤字が出たとき来年度に繰り越しできる
賃貸マンションを法人で運営している場合、事業の赤字を翌年以降に繰り越すことができます。
赤字の翌年が黒字になったとしても、利益と繰越損失が相殺されて法人税が安く抑えられることがあります。
法人であれば最長で10年まで赤字繰り越しできますが、個人で所有している場合はこのような措置はありません。
メリット⑥:対外的な信用度が上がる
個人名義よりも法人名義であった方が対外的な信用を得られるということも考えられます。
たとえば銀行から融資を受けようとする際、法人であることが審査に有利になることがあります。
また入居者や協力業者などの第三者に対しても、会社格をもっていることで信用度が増すというメリットがあります。
法人がマンションを購入するデメリット3つ
法人がマンションを購入するデメリットは、以下の3つになります。
- 住宅ローンの借り入れができない
- 住宅借入金などの特別控除が使えない
- 現時点で非法人なら設立登記費用などがかかる
1つずつ解説していきます。
デメリット①:住宅ローンの借り入れができない
銀行が融資する住宅ローンの使途は個人が居住する家屋を購入することに限られるため、法人は原則として利用することができません。
法人が融資を受けてマンションを購入する場合は必然的に事業融資になるため、金利が高くなってしまうなどのデメリットがあります。
自分が住むために使用する場合は法人名義にしない方がいい場合もありますので、節税効果など含めて総合的に判断するようにしましょう。
もっとも、個人名義であっても住宅ローンで購入したマンションを投資利用することはできませんので、その点はご注意ください。
住宅ローンについて
デメリット②:住宅借入金などの特別控除が使えない
法人は住宅ローンを借入することができないため、住宅借入金などの特別控除(住宅ローン控除)を受けることができません。
住宅ローン控除は、毎年のローン残高の1%が所得税から控除されるという税制優遇制度です。
所得額によって上限はありますが、たとえば初年度住宅ローンの残高が3,000万円であればその1%の約30万円が支払った所得税から還付されます。
個人でマンションを購入した場合は原則として10年間この控除を受けられますので、合計するとかなり大きな優遇になります。
法人の場合は、たとえ役員が住む目的で購入したマンションであってもこの制度を使うことはできません。
住宅ローン控除については、マンションを購入するときに知っておきたい住宅ローン控除とはで詳しく解説しています。
マンションを購入するときに知っておきたい住宅ローン控除とは
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デメリット③:現時点で非法人なら設立登記費用などがかかる
個人から法人化する場合、諸経費がかかることも考えなければいけません。
株式会社を設立するとき、法人定款の作成・認証をはじめ、登録免許税、司法書士への報酬など合わせて20~30万円の費用がかかります。
また、マンションの名義を個人から法人へ移す所有権移転登記や、銀行からの借入に対する抵当権設定登記を新たに行う必要もあり、これを合計するとおおよそ20~25万円前後の費用になります。
法人化に必要な費用を勘案し、得られる節税効果と比較しながら判断するようにしましょう。
名義変更の方法についての注意点3つ
不動産の名義を個人から法人へ移転するためには、以下の点に注意しましょう。
- 贈与によりマンションの所有権を移転する場合
- 売買によりマンションの所有権を移転する場合
- 出資(現物出資)によりマンションの所有権を移転する場合
具体的には「贈与」「売買」「出資」という方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあるため内容を理解し適切な選択をしていきましょう。
1つずつ解説していきます。
注意点①:贈与によりマンションの所有権を移転する場合
個人から法人へマンションを贈与する形で所有権を移転する場合、税制面に大きなデメリットがあります。
贈与した側は財産を無償で譲渡するわけですので一見税金がかからないように思えますが、税制上は「みなし譲渡」という扱いになり、譲渡所得税の課税対象になることがあります。
また贈与を受けた法人側は、もらったマンションの時価総額が会社の受贈益となり、その年の法人税が多くなります。
登記手続き上は一番手っ取り早い方法ではありますが、税金面で言うとあまり現実的な方法ではありません。
注意点②:売買によりマンションの所有権を移転する場合
個人を売主、会社を買主として、売買契約を締結し所有権を移転するという方法です。
売買で所有権を移転するとき、一番気を付けなければならないのが売買価格の設定です。
売買価格を安くしすぎるとその乖離分が贈与とみなされますし、逆に高すぎると譲渡所得税が大きくなってしまいます。
時価総額との開きが大きくならないように適切な価格を設定しなければ税制上不利になってしまうという点に注意しなければなりません。
なお売買契約後は、引き渡し時に実際に法人から個人へ代金を清算する必要があるという点も留意しましょう。
注意点③:出資(現物出資)によりマンションの所有権を移転する場合
個人から会社へ現物出資をするという方法もあります。
現物出資をする点で注意すべき点は、不動産鑑定士にて不動産価格を算出する必要があるということです。鑑定を依頼した場合、おおよそ30~50万円の費用が発生します。
手続き的に煩雑な上に費用もかかるというデメリットはありますが、会社の資本金が増やせるなどのメリットもあるのでこの方法が有利に働くかはケースバイケースです。
出資した個人側は、税制上資産の売却と同じ扱いになります。
出資行為自体が所得税の対象となることがあるというにも気を付けなければなりません。
法人と個人で比較
マンションを所有するなら個人名義・法人名義のどちらが有利なのか以下の3つを比較していきます。
- 不動産収入
- 不動産譲渡所得税
- 不動産相続対策
1つずつ見ていきましょう。
比較①:不動産収入
個人名義で所有しているマンションを賃貸運用しているとき、不動産所得として所得税の課税対象になります。
不動産所得は、他に給与所得や事業所得があればそれらと合算し、所得額合計に応じて下記の税率をかけて税額を算出します。
所得区分 | 所得税率 | 住民税率 | 所得税控除額 |
195万円以下 | 5% | 約10% | 0円 |
195万円超え330万円以下 | 10% | 97,500円 | |
330万円超え695万円以下 | 20% | 427,500円 | |
695万円超え900万円以下 | 23% | 636,000円 | |
900万円超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | |
1,800万円超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
個人の年間課税所得が合計1,000万円だったとき、概算で1,000万円×43%-1,536,000円となり、約276万円の課税となります。
一方で、所得に対して法人が払う税金には法人税・法人事業税・法人住民税・地方法人税等があります。
一般的な中小企業を例にすると、以下の税率に基づいて課税額が計算されます。
税区分 | 課税対象 | 税率 | 課税所得 1000万円のとき | |
法人税 | 課税所得800万円以下の部分 | 15% | 120万円 | |
課税所得800万円超の部分 | 23.2% | 46.4万円 | ||
法人事業税 | 課税所得400万円以下の部分 | 3.5% | 14万円 | |
課税所得400万円超800万円の部分 | 5.3% | 21.2万円 | ||
課税所得800万円超の部分 | 7.0% | 14万円 | ||
法人住民税 | 法人税割 | 法人税額 | 10.3% | 17.13万円 |
均等割 | 一律 | 7万円 | 7万円 | |
地方法人税 | 法人税額 | 10.3% | 17.13万円 | |
実効税率 | 約25.1% | 約251.3万円 |
(※税率条件:東京都23区に事務所をおき、資本金1千万円以下、従業員数50人以下、年間所得額2,500万円以下の法人が令和2年4月以後に開始する事業年度)
会社の年間課税所得が1,000万円だったとき、約251万円の課税となり、実効税率は約25.1%ということになります。
個人に課税される所得税・住民税を合算した実効税率は年間所得900万円以下であれば法人税等よりも低いですが、900万円を超えてくると逆転し、法人税等の実効税率を上回ります。
このことから、900万円~1,000万円以上の課税所得があれば法人の方が有利だと言えます。
個人の場合はマンションから得られる収入に加えて給与などの別の収入も合算されますので、他の条件も加味しながらどちらが税額を安く抑えられるのかを検討する必要があります。
比較②:不動産譲渡所得税
マンション売ったときの売却益に対する税金で比較するとどうでしょうか。
個人がマンションを売却したとき、マンションの所有期間に応じて以下の税率に基づき譲渡所得税を計算します。
長期譲渡所得 (所有期間5年超) | 所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%=20.315% |
短期譲渡所得 (所有期間5年以下) | 所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%=39.63% |
一方で法人がマンションを売却するときは、所有期間に関わらず、会社の所得に対して法人税等が課税されます。
一般的な法人の実効税率はおよそ25~30%前後を推移しており、短期譲渡所得の税率である39.63%を上回ることはないため、マンションの所有期間5年以下の短期譲渡であれば法人の方が有利です。
キャピタルゲインを得る目的でマンションを短期的に転売する事業を考えているときは、法人名義の方が税金を安く抑えることができます。
キャピタルゲインとは
キャピタルゲインとは、保有している資産を売却することで得られる売買差益のことをいいます。
逆に個人が有利になる場合は所有期間が5年以上のときです。
長期譲渡所得であれば税率は20.315%となり、個人名義の方が税金は安くなります。
また、個人が自分で住んでいた場合であれば所有期間に関わらず自己居住用財産の3,000万円の特別控除という制度を適用させることができるので、課税されることなくマンションを売却することができます。
比較③:不動産相続対策
相続対策としてはどうでしょうか。
マンションを法人として所有することの相続税上のメリットは以下の通りです。
- 相続が発生しても、マンションそのものは会社の財産なので相続財産にはならない。
- 家賃収入などの収益は、相続予定者を会社役員にすることで生前に相続や贈与によらず現金を託すことができる。
- 相続財産となる法人の株式などは、暦年課税を利用し数回に分けて譲渡すれば課税対象にならない可能性がある
一方で、個人で所有している場合の相続税上のメリットは以下の通りです。
- 小規模宅地等の特例が適用できる
- 相続後に売却し現金化しやすい
マンションを残したいのか?生前贈与をしたいのか?というように、どのような相続対策がしたいのかによって、結論は変わるようです。
上記のメリットを比較し、ご自身の終活プランに合った方法を検討する必要があります。
まとめ
各項目の比較ポイントをまとめると以下のようになります。
所得税 | ・課税所得が900万円より低いとき | 個人の方が有利 |
・課税所得が900万円~1000万円以上 | 法人の方が有利 | |
譲渡所得税 | ・所有期間5年超の長期売買 ・自己居住用マンションの売買 個人の方が有利 | 個人の方が有利 |
・所有期間5年以下の短期売買 法人の方が有利 | 法人の方が有利 | |
相続対策 | ・実家として承継したい ・相続後に売却してほしい…等 個人の方が有利 | 個人の方が有利 |
・相続財産を減らしたい ・生前に現金を託したい…等 法人の方が有利 | 法人の方が有利 |
法人だからこそできる節税効果もありますが、法人化することによる注意点も多いですので、様々な要因を総合的に勘案してどちらがお得なのかを判断する必要があります。
「会社を持つ」というのはハードルが高く聞こえますが、マンションの収益が大きくなってきたときに一つの選択肢として検討してみるのはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
資格:宅地建物取引士・FP2級・行政書士試験合格
学生時代は不動産業界への強い関心があり、大学では取引関連法を学んでいました。
新卒後すぐに不動産業界に飛び込み、現在は土地売買や相続案件など幅広い実務を担当しています。得意分野は取引法務です。法律の知識をもっと深くしたいという想いから、仕事をしながら独学で行政書士の試験に合格しました。
資格取得によって身に着けた知識と実務で培った経験を活かして、不動産オーナー様のお役に立てるよう日々頑張っています。趣味は旅行。座右の銘は「我以外、皆我が師」
真地 リョウ太(ペンネーム)
30代男性